ルリキンバエは、光周期や温度に反応して卵巣の発達を抑制した成虫休眠に入る。本研究はこの休眠を調節する神経機構を解明することを目的としている。平成13年度は、培養条件下でアラタ体の幼若ホルモン合成活性を測定する方法によって、脳を同時培養するとアラタ体の幼若ホルモン合成活性が低下することを発見した。これにもとづいて、脳が分泌するアラタ体活性抑制物質の単離・同定へと進めてゆきたい。脳間部神経細胞を除去することが非休眠条件下で卵巣発達を抑制し、脳側方部神経細胞を除去することが休眠条件下で卵巣発達させたが、これらの処理は培養条件下でのアラタ体の幼若ホルモン合成活性に明瞭な影響を与えなかった。したがって、これらの神経細包除去の休眠におよぼす効果はアラタ体の幼若ホルモンを介さない可能性が浮上した。さらに、脳の神経細胞の電気的活動と休眠の関係を明らかにするために、アラタ体およびその周辺に終末を送っている脳間部および脳則方部神経細胞における電気的活動の細胞内記録方法を確立し、これらの細胞の微細な構造と電気的活動の特徴を明らかにした。その結果、脳間部に2種類(Ia、Ib)、脳側方部に2種類(La、Lb)の細胞群を同定した。組織化学および電気生理学的特徴から、Ia、Ib、La細胞はホルモンを分泌する神経分泌細胞であると推定された。一方、Lb細胞はホルモンを分泌しない通常の神経細胞と考えられ、免疫組織化学によってコラゾニンと色素拡散ホルモンを伝達物質として用いていることが示唆された。今後は、これらの神経細胞の休眠調節における役割を明らかにしてゆく。
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