ルリキンバエのメス成虫は、短日・低温条件下で卵巣発達を抑制した休眠に入る。これまでに、休眠中はアラタ体による幼若ホルモンの合成活性が低下することがわかっている。本研究はこの成虫休眠を調節する神経機構を明らかにすることが目的である。 平成14年度は、まず、アラタ体やその周辺に終末する脳内のニューロンを免疫組織学的に同定した。11種類の神経ペプチドに対する抗体で染色した結果、FMRFアミド、甲殻類色素胞拡散ホルモン、コラゾニン、コレシストキニン4種類の抗体に対し、目的のニューロン群が免疫陽性を示した。少数の脳間部ニューロンがFMRFアミド免疫陽性を示した。脳側方部に細胞体を持つニューロンは5種類に分類された。そのうち、2種類には、甲殻類色素胞拡散ホルモン、コラゾニン、コレシストキニン様物質が共存していた。2種類のニューロンはFMRFアミド陽性であった。また、FMRFアミド陽性ファイバーはアラタ体に終末しており、他3種類のペプチド陽性ファイバーは側心体に終末していることがわかった。 次に、平成13年度に確立した幼若ホルモン合成活性測定法を用いて、これらペプチド4種類のアラタ体における幼若ホルモン合成活性に対する影響を調べた。コラゾニン、コレシストキニン(CCK8)は合成活性に影響を与えなかった。一方、甲殻類色素胞拡散ホルモンにより、幼若ホルモンの合成活性はわずかに上昇し、FMRFアミドにより合成活性は抑制された。このことから、休眠中、脳間部あるいは脳側方部ニューロンに存在するFMRFアミド様物質がアラタ体の幼若ホルモン合成活性を抑制している可能性が示唆された。今後は、これらニューロンの電気的活動を調べるとともに、これらの上流にあるニューロン群を探ってゆく予定である。
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