研究概要 |
ルリキンバエのメス成虫は、短日・低温条件で休眠に入り、卵巣発達を抑制させる。これまでに、休眠中はアラタ体による幼若ホルモンの合成活性が低下すること、脳間部、脳側方部ニューロンはアラタ体とは別の経路で休眠調節に関わっていることがわかっている。本研究はこの成虫休眠を調節する神経機構を明らかにすることが目的である。 本年度は、まず、アラタ体やその周辺に終末する脳側方部、脳間部ニューロンからの細胞内電位記録および染色を行いニューロンの形態と電気的性質を調べた。その結果、3種類の脳間部ニューロン(PIa,PIb1,PIb2)と2種類の脳側方部ニューロン(PLa,PLb)が同定された。PLbニューロンのスパイク持続時間は通常のニューロンと同程度(1-2ms)であったが、PIa,PIb1,PIb2,PLaニューロンでは比較的長く(3-10ms)、これらが神経分泌細胞であることが示唆された。PLbニューロンは神経ペプチド、コラゾニン、FMRFアミド、色素拡散因子に対し免疫陽性を示した。また、PIb2、PLaニューロンはアラタ体内部に終末していた。 次に、これらニューロンの電気的活動を非休眠条件(長日・高温)と休眠条件(短日・低温)で比較した。その結果、PIa、PLbニューロンにおいて条件間で有意な差がみられた。PIaニューロンではスパイク発火のない個体が非休眠条件で見られた。スパイク発火する個体で比較すると、休眠条件のスパイク持続期間は非休眠条件のものより長かった。PLbニューロンでは休眠条件のスパイクの高さが非休眠条件のものより大きかった。 以上より、PIb2、PLaニューロンはアラタ体の調節に、PIa、PLbニューロンは休眠の調節に関与する可能性が示された。今後、本研究で同定された各ニューロンの投射形態をもとに、これらニューロンへの入力系を探る研究へと進むことができるだろう。
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