昆虫の多くは光周期によって制御される休眠をもち、それによって成長や生殖に不都合な季節をきりぬけている。本研究の目的は、成虫期にそのようなしくみをもつルリキンバエにおいて、休眠を制御する神経機構を解明することである。 放射化学アッセイ法により、アラタ体の幼若ホルモン(JH)合成活性を測定した。その結果、JH合成活性が低くなることによってルリキンバエは生殖休眠に入ることがわかった。また、生殖休眠は脳間部・脳側方部ニューロンによる調節とJHによる調節を受け、これらは互いに別の経路で卵巣発達を調節していると示唆された。細胞内色素注入と細胞内電気記録により脳間部に3種類、脳側方部に2種類のニューロンを同定した。休眠条件と非休眠条件でこれらニューロンの活動を比較した結果、1種類の脳間部ニューロンではスパイク持続期間に、1種類の脳側方部ニューロンではスパイクの高さに違いが見られた。また免疫組織化学により、脳間部、脳側方部ニューロンに対し免疫陽性を示す4種類の神経ペプチド、FMRFアミド、甲殻類色素拡散ホルモン、コラゾニン、コレシストキニンが見つかった。様々な神経ペプチドや脳組織とアラタ体を共に培養し、JH合成活性に対する影響を調べた結果、FMRFアミドと脳葉がJH合成活性をわずかながら抑制することがわかった。 本研究により、成虫休眠の調節に関わる脳間部ニューロンと脳側方部ニューロンの形態学的、電気的性質を明らかにし、JH合成活性を調節する候補を挙げることができた。
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