研究概要 |
我が国における淡水産渦鞭毛藻類の多様性の実体を把握するために,昨年度に引き続き北海道を中心に日本各地の湖沼から水サンプルを採集し,渦鞭毛藻類の種の同定をおこなった。現時点で,14属55種の淡水産渦鞭毛藻の存在を確認した。また,53種66株の渦鞭毛藻について18S rRNA遺伝子のほぼ全域について遺伝子解析し,分子系統学的解析をおこなった。 その結果,1)GymnodiniumやGyrodinium, Amphidinium, Peridinium, Peridiniopsisといった大きな属が多系統であること,2)Gyrodinium属の定義は溝の形態より,頂溝や細胞表面の構造などが重要であること,3)特異な形態をもつ不動性渦鞭毛藻Cystodiniumは系統的にはWoloszynskiaと近縁らしいこと,4)有殻種では,鎧板の枚数など永らく用いられてきた形態形質よりも葉緑体の形態やシストの形態,鎧板表面の模様などの方が系統を反映している形質である可能性が高いことなどを見いだした。 昨年までの成果では,多数の薄い鎧板をもつことで特徴づけられるWoloszynskiaという比較的大きな属が多系統であるとの結果を得ていたが,その後調査対象を広げたところ,分子系統学的に単系統を形成する可能性が出てきた。しかも,今まで誰も指摘していなかった,共生藻の褐虫藻Symbiodiniiumを含むスエシア目のメンバーと近縁であり,ゴニオラックス目ともペリディニウム目とも独立の系統をなす可能性が示唆された。ただし,この点については別の遺伝子を用いてなどのさらなる確認が必要である。
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