研究概要 |
我が国における淡水産渦鞭毛藻類の多様性の実体を把握するために,平成13年度から平成15年度にかけて,北海道を中心に日本各地の湖沼から水サンプルを採集し,渦鞭毛藻類の種の同定をおこなった。現時点で,69種の淡水産渦鞭毛藻の存在を確認した。また,53種の渦鞭毛藻については,18S rRNA遺伝子のほぼ全域について遺伝子解析し,また,20種についてはLSU rRNAの部分配列を解析し分子系統学的解析をおこなった。まだ,暖帯域の調査が十分ではないものの,我が国における冷温帯の渦鞭毛藻フロラはかなり明らかにできたものと総括できる。 分子系統学的研究の結果,1)GymnodiniumやGyrodinium, Amphidinium, Peridinium, Peridiniopsisといった大きな属が多系統であること,2)Gyrodinium属の定義は頂溝や細胞表面の模様などが重要であること,3)特異な形態をもつ不動性渦鞭毛藻Cystodiniumは系統的にはWoloszynskiaと近縁らしいこと,4)有殻種では,鎧板の枚数など永らく用いられてきた形態形質よりも葉緑体の形態やシストの形態,鎧板表面の模様などの方が系統を反映している形質である可能性が高いこと,5)クレプトクロロプラストという特異な現象をもつ渦鞭毛藻は,細胞外形にかかわらず単系統であるらしいこと,6)Woloszynskiaの少なくとも一部は,共生渦鞭毛藻としてよく知られるSymbiodiniumと近縁であること,などを見いだした。 本研究では,単細胞PCR法や単細胞SEM固定法などの方法を工夫し,実践することにより,迅速に淡水産渦鞭毛藻類の系統関係を明らかにし,同時に,現在の分類体系の問題点をあぶりだすことにも成功した。今後の課題は,より古い時代の渦鞭毛藻の分岐順序を明らかにできるような分子種を探索することである。
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