奄美大島でウミニナ類の分布調査と採集をおこなった。浦川河口干潟から採集された20個体について、ミトコンドリアDNA・チトクロームオキシダーゼ・サブユニットI遺伝子領域の下流側、約400塩基対の配列を決定し、既知のウミニナ類の配列と比較しところ、14個体がリュウキュウウミニナ型の配列を持っていたのに対し、6個体の配列はウミニナ型であった。両者の間には、明確な貝殻形態の差異は見られなかった。 ウミニナとリュゥキュウウミニナの系統関係をより正確に解析するため、これまで得られたウミニナおよびリュウキュウウミニナの全てのハプロタイプについて同遺伝子の上流側の塩基配列を決定し、640塩基対の配列に基づく分子系統解析をおこなった。その結果、ウミニナ型の個体が明らかな単系統群を形成するのに対し、リュウキュウウミニナの単系統性は支持されなかった。奄美大島のリニゥキュウウミナ型個体は、沖縄本島東岸に低頻度に分布する個体と単系統群を形成し、地理的に近い中琉球(沖縄本島と久米島)の大部分の個体よりも南琉球の個体群と近縁である事が示された。 以上の結果から、ウミニナとリュゥキュウウミニナの共通先祖が琉球列島に2回侵入した事、その片方に由来する少数の個体が日本列島へ侵入して、ウミニナに分化した事、両者の間の種分化は未だ完了しておらず、同所的に生息する分布境界の奄美諸島では種間の交配が起こっている事が示唆された。これらの事を検証するため、核遺伝子に基づく解析をおこなうとともに、大陸集団との系統関係を明らかにする必要がある。
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