日本列島、琉球列島およびアジア大陸の干潟に生息するBatillaria属(ウミニナ類)およびCerithidea属(ヘナタリ類)の巻貝全種を対象に、その系統関係とれぞれの種の集囲構造をミトコンドリアDNAの塩基配列に基づいて解析した。 Batillaria属では、唯一プランクトン幼生期を持たない直達発生種であるホソウミニナについて、韓国の集団と日本列島の集団との遺伝的関係を解析したところ、少なくとも比較的最近(最終氷期末)まで交流があった事が示された。またウミニナとリュウキュウウミニナの共通先祖が日本列島へ侵入して、ウミニナに分化した事が示唆された。同属で唯一、日本列島と琉球列島に生息するイボウミニナでは、両列島間に有意な遺伝的階層構造は検出されなかったものの、南琉球、中琉球、日本列島の黒潮流域および対馬暖流流域の4集団間に遺伝的分化が進みつつある事が示された。 Cerithidea属巻貝類366個体についてCOI遺伝子の塩基配列を決定し、分子系統学および系統地理学的解析をおこなった。揚子江河口と大分県のクロヘナタリ集団の間には遺伝的な分化が見られない事、これまで形態に基づき単一種と考えられていたヘナタリのうち、南琉球に生息する個体群が既に別の種に分化している可能性がある事、日本列島のフトヘナタリとその亜種とされる琉球列島のイトカケヘナタリとの間の遺伝的差異は種内変異のレベルである事などが示された。 琉球列島に分布するCerithidea属3種とBatillaria属2種を比較すると、いずれの種でも慶良間海裂で隔てられる中琉球と南琉球の集団間に遺伝的分化がみられたが、その程度は種によって異なっていた。また、沖縄諸島の集団が種内で遺伝的に最も分化するパターンが、広く認められ、琉球列島形成史上の共通の要因によるものである可能性が考えられた。
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