研究概要 |
今年度は,主としてユミヒゲザトウムシ種群のうち,中国地方において相互に俳他的な分布(チェス盤状分布パタン)を示すヤマスベザトウムシLeiobunum mountanum(以下ヤマスベと略す)とヒライワスベザトウムシL. hiraiwai(以下ヒライワ)の2種についての,詳細な生息状況と外部形態の地理変異パターンの把握をめざした。得られた結果は次のとおりである. 1)両種の分布:鳥取県東部の扇ノ山周辺にはヤマスベ,そのすぐ南の氷ノ山にはヒライワが生息するが両者はその中間にあたる氷ノ山の北斜面で同所的となることがわかった。一方,若桜町南部から大山まで分布するヤマスベの分布域と江府町三平山周辺のヒライワの分布域の間には,広い分布の空白域があり,両者は出会っていないと判断された。また,日南町船通山でヒライワ(比婆山系以西に分布する九州広島型)の生息、が初めて確認できた。 2)中国地方東部で外部形態変異の著しいヤマスベについて,外部形態の測定値について主成分分析をおこなった。生殖器形質と環境の影響を受けやすい第1歩脚長をのぞく9形質では,第1主成分(体長,触肢長,頭胸部幅に相関が高い)で全変異量の74%,第2主成分(腹部幅や触肢付節長、触肢脛節長に関連が高い)で9.6%を説明できることがわかった。第1主成分に関して東西方向の地理的クラインが観察された。一方,若桜町から扇ノ山周辺の集団のうち,氷ノ山の北側の扇ノ山一帯の集団と,戸倉峠より南側の集団は第2主成分に関してくっきりと区別されることがわかった。 3)ヤマスベがヒライワと同所的となる氷ノ山北側斜面の集団で,形質置換を起こしているかどうかを検討したが,とくにその兆候はみられなかった。扇ノ山周辺集団はもともと体が大型化しており,同所的なヒライワとの体のサイズの差が大きい。よって両者の間に種間競争はもとから期待しにくいのかもしれない。
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