研究概要 |
ユミヒゲザトウムシ種群Leiobunum curvipalpe group(クモガタ綱ザトウムシ目)は,日本各地の主にブナ帯以上の山地に生息する一単系統群で,これまでに7亜群11種が知られている(Tsurusaki 1985)。この群は,1)2種の産雌単為生殖種の存在,2)広域分布の種における交尾器と染色体数の地理的分化の存在,3)数種における,性選択でもたらされたと考えられる雄の触肢の発達,4)西日本に広域分布するヤマスベザトウムシL.montanumとヒライワスベザトウムシL.hiraiwaiの2種間にみられる相補的分布(いわゆるチェス盤型パターン)の存在,などによって系統分類学,進化生物学,群集生態学などの多様性生物学の諸分野の研究において,興味深い研究対象である。このような背景のもと,本研究はとくに数種にみられる染色体交雑帯の性質,本群内の核型進化,2種の単為生殖種とそれぞれの倍数性品種間の系統関係を総合的に検討することを目的として行った。 本年度に進めた作業はほぼ次のとおり:(1)ユミヒゲザトウムシ種群全体の,種分化,交尾器形態の分化,核型進化,単為生殖の2種の倍数体出現の経路を跡づけるために,中部地方〜東北地方および北海道各地の5種12集団について,DM分析用サンプルを収集し,染色体プレパラートを作成した。前年度までに収集したサンプルと合わせ,現在,分析を行っているところである。(2)今回の野外調査では他のザトウムシについても核型分析等を進めた。これらはユミヒゲザトウムシ種群の核型分化,単為生殖の議論にも密接にかかわるので,今回の野外調査で先にデータが揃った北海道でのザトウムシ各種の生活史と,ヒトハリザトウムシPsahthyropus tenuipesのB染色体の地理的変異について論文を作成・投稿した(印刷済み,または受理済み)。
|