研究概要 |
本研究では、まず、種レベルの解像度の高い分子系統樹を構築するには、葉緑体trnK遺伝子5'イントロン領域の塩基配列の解析が有効である場合が多いことを見出した。次に、この領域とこれに隣接するmatK遺伝子領域の両方の塩基配列の解析によって、形態的に原始的な単子葉植物の一つであるショウジョウバカマ属の解像度の高い分子系統樹を構築した。そして、この分子系統樹を新たな尺度として利用することによって、ショウジョウバカマ属の系統分類学的並びに分類地理学的な問題点の解決を試みた。その結果、それまで日本のショウジョウバカマと同種とされてきた韓国の植物は2つの独立した新種からなることを解明し、それらをそれぞれHeloniopsis tubiflora,H.koreanaと命名した。また、それまでシロバナショウジョウバカマとされてきた関東地方の植物は本当はツクシショウジョウバカマであることを見出し、ツクシショウジョウバカマは関東地方と中国地方・四国・九州とに隔離分布することを示した。そして、世界のショウジョウバカマ属は7種1変種からなるという新しい分類を設立した。 本研究では、塩基配列の解析に加えて、形態的に原始的な単子葉植物に含まれる広義ユリ科のアマドコロ属・ギボウシ属やヤマノイモ科ヤマノイモ属の各種の形態形質の解析をも行った。そして、これらの解析の結果、いくつかの新種・新変種・新組合せを発表した。また、アマドコロ属では、それまで独立種と考えられてきたいくつかの植物が雑種であることを解明した。これらの成果は、Flora of Japan IVb巻(講談社)のユリ科やヤマノイモ科の分類に反映されている。
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