動物分類学上、脊椎動物の前段階に位置し脊椎動物の祖先型の諸特性を有していると推測される原索動物ナメクジウオ(Branchiostoma belcheri)のLDH遺伝子ならびに本遺伝子より大腸菌の発現系を用いてインビトロ翻訳したLDHタンパクの酵素学的性質を検索した。その結果、999塩基から成るナメクジウオLDH遺伝子の全塩基配列がはじめて明らかとなり他脊椎動物のLDH遺伝子との相同性は67〜86%であることが分かった。また、この塩基配列および対応するアミノ酸配列ならびにその二次構造予測の結果を他生物のLDHと比較考察したところ、LDHの酵素学的機能に関与する領域は完全に保存されていたが、周辺領域については相違する特徴的な領域のあることが明らかとなった。また、アイソザイム特異領域のアミノ酸配列から推測するとナメクジウオのLDHは相対的にLDH-A遺伝子に近似した構造特性を有している可能性が示唆され、分子系統樹よりヒトなど脊椎動物とは異なる分化・進化の過程が推察された。。また、in vitro翻訳したLDHタンパクは分子量が140kDaおよび等電点がpI7.5であった。酵素学的性質は、至適pHがL-P反応でpH9.3-9.6、P-L反応でpH7.4-7.6となり、熱安定性は50℃、30分の孵置においても50%の残存活性が認められた。また、見掛けのKm値はそれぞれピルビン酸が1.7×10^<-4>M、乳酸が1.6×10^<-2>M、NADHが3.7×10^<-4>MおよびNADが8.2×10^<-4>Mとなり、魚類のLDHと近似した傾向が認められた。各種金属イオンの影響については、Mn^<2+>、Zn^<2+>およびSn^<2+>で著しい阻害が認められ、この様な傾向はPCMBでも同様であった。これに対し、Hg^<2+>およびSn^<2+>では逆に賦活作用を有することが分かった。さらに、3種類のNAD^+アナログに対する反応性においては、ピリジン環に置換基を有するNAD^+のうち、APADのみに1.7倍もの反応性の向上が認められた。 以上の研究により、ナメクジウオLDHの分子進化学的位置づけおよびその酵素学的性質をはじめて明らかにすることができた。
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