クマ科系統内のロコモーションおよび採餌機構の適応戦略に関する機能形態学的解析

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13640705
• 研究機関: 独立行政法人国立科学博物館
• 研究代表者: 遠藤 秀紀 国立科学博物館, 動物研究部, 研究官 (30249908)
• 研究分担者: 佐々木 基樹 帯広畜産大学, 畜産学部, 助手 (50332482)
• キーワード: クマ科 / ホッキョクグマ / ジャイアントパンダ / 咀嚼筋 / 側頭筋 / 咬筋 / 前腕 / 肉眼解剖学

研究概要

研究計画に従い、ツキノワグマ、ヒグマ、マレーグマ、ジャイアントパンダの遺体を収集、また収蔵遺体・標本を用いて、ロコモーションと採餌に関わる運動器を検討した。機能と直結する部位として、まず前肢端と上下顎咀嚼筋付着部位に焦点を絞った。
研究代表者は、上記各種各部位の骨計測値を集積した。それぞれの値は統計学的解析を受け、計測値の定量的適応域という概念で結論付けている。同時に研究代表者と研究分担者は、咀嚼筋の発達程度を記載し、筋重量による定量的な議論を行い、CTスキャンとMRIによる3次元筋構築の検証を進めた。また、サンプルサイズの大きな種に関しては、前腕の伸筋群と屈筋群に関する記載を進め、いくつかの筋肉の起始、終止、走行空間、筋重量、神経支配について比較し、理論構築を行うことができた。
今年度は、典型的な肉食生態をとるヒグマ、ホッキョクグマと、草食性適応の完了したマレーグマ、ジャイアントパンダを比べることで、クマ科系統内の適応戦略が明確化した。前者で捕食・走行機能を重視していた前腕は、後者では方形回内筋、回外筋の発達を通じて、植物採餌機能が進化している。また咀嚼筋においては、側頭筋深層や内・外側翼突筋構築がまったく異なり、肉食・草食双方のために切断・破砕圧力の推測結果が示された。
研究組織は、富山大学、日本大学、日本哺乳類学会、日本獣医学会などで、関連する食肉目各科の標本を検討し、また成果を討議、発表した。解析結果は多数の学術出版物として印刷されつつある。

研究成果

• [文献書誌] Endo, H., Sasaki, M.et al.: "Functional morphology of the mastication muscles in the lesser and greater mouse deer"Journal of Veterinary Medical Science. 64・10. 901-905 (2002)
• [文献書誌] Endo, H. et al.: "Muscles of mastication in the Caspian seal (Phoca caspica)"Anatomia, Histologia and Embryologia. 31・3. 262-265 (2002)
• [文献書誌] Endo, H., Sasaki, M.et al.: "Functional morphology of the forelimb muscles in an aardvark"Mammai Study. 27・2. 121-125 (2002)
• [文献書誌] Endo, H. et al.: "Three-dimensional image analysis of a head of the giant panda by the cone-beam type CT"Journal of Veterinary Medical Science. 64・12. 1133-1135 (2002)
• [文献書誌] Endo, H., Sasaki, M.et al.: "Size relationships between the skull and flat skin in the three species of Canis"Japanese Journal of Zoo and Wildlife Medicine. (印刷中).
• [文献書誌] Endo, H., Sasaki, M.et al.: "Comparative morphology of the muscles of mastication in the giant panda and the Asiatic black bear"Annals of Anatomy. (印刷中).
• [文献書誌] 遠藤秀紀: "哺乳類の進化"東京大学出版会. 383 (2002)