研究概要 |
日本海の深海性魚類相を特徴づけるゲンゲ科,カジカ亜目ならびに板鰓類の形態学および遺伝学的調査を進め,かつ同海域の深海(200m以深)に出現する魚種を標本と文献に基づき調べた.本海域には少なくとも200種以上の深海性魚類が生息することが判明したが,出現記録はあるものの証拠標本がないためにその生息に疑問がのこる種の存在も明らかになった.本年度は日本海大和堆での追加標本の採集や大学等の所蔵標本の調査の他,北海道立稚内水産試験場と水産総合研究センター北海道区水産研究所の協力を得て,比較に必要不可欠だったオホーツク海のサンプルを入手し,以下の知見を得た. 1)ミトコンドリアDNAシトクロームb領域を用いたゲンゲ科魚類の分子系統学的な解析により,日本海でも多様な種を含むマユガジ属は多系統起源であり,周辺海域から日本海深海域への侵入と種分化の関係が示唆された.また,ノロゲンゲは日本海,東北太平洋岸およびオホーツク海に分布するが,日本海の個体は,東北太平洋岸とオホーツク海の個体とは遺伝的に異なることが判明した.3海域のノロゲンゲは,東北太平洋岸・オホーツク海のシロゲンゲとカンテンゲンゲからなるクレードと姉妹群になる可能性が高く,同種の遺伝的分化に日本海が大きく関わることが示された. 2)分類学的な調査から,朝鮮半島東部からゲンゲ科サラサガジ属の稀種の標本,日本海大和堆からゲンゲ科マユガジ属の1未記載種およびクサウオ科コンニャクウオ属の1稀種と思われる標本を得た.比較の過程でその周辺海域から上記とは別のゲンゲ科の1稀種(オホーツク海)と上記とは別の1未記載種と2未記載属2未記載種(太平洋岸・オホーツク海)と考えられる標本を発見し,日本海と周辺海域の魚類分類をより明確にすることができた.
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