平成15年度は当初中国西南部での調査を予定していたが、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行による渡航自粛勧告が出されたため、国内での調査に切り替えた。国内では、8月に北海道東部、9月に北海道西部、10月に本州中部の八ヶ岳において野外調査を実施した。これらの地域において、周北極要素と東アジア要素の高山性コケ植物を調査することができた。現地調査では、確認された高山性コケ植物の生育状況とその生育環境を記録するとともに、資料を収集した。資料はこれまでに入手した資料とともに、研究室で詳細な外部形態の観察を行うとともに分子系統解析を行った。また、得られた資料の一部は標本として保管するほか分子系統解析を行うために、ディープフリーザーで冷凍保存した。 これまでの研究の結果、いくつかの新知見を得た。例えば、中国西南部と台湾の高地に分布する蘚類の単型属Giraldiellaは、これまでツヤゴケ科、ハシボソゴケ科、ハイゴケ科に置く異なる見解があった。今回の分子系統解析の結果は、本属はハイゴケ科に属し、キヌゴケ属のPylaisia falcataと近縁であることを示唆した(Arikawa & Higuchi 2003)。また、ブータン、中国西南部、台湾の高地に知られ、最近日本から報告した蘚類の単型属Neodolichomitraについても、その所属について異なる見解があった。分子系統解析を行った結果、本属はその多くが周北極要素もしくは高山性の種であるイワダレゴケ科に属することが支持された(Arikawa & Higuchi 2003)。さらに、高山性の稀産種であるナンジャモンジャゴケを栃木県において、イシヅチゴケを北海道東部で確認し、その資料をもとに研究を進めている(湯澤他2003)。
|