北海道茅部郡南茅部町・臼尻B遺跡における昭和53年度の第3次調査で、第10号住居址床面から掘り込まれた、いわゆるフラスコ状ピット内に合葬されていた、成年女性(1号)および小児(2号)の2体合葬人骨について、遺伝学的、形態学的、考古学的手法を用いて血縁推定を試みた。埋葬の状況および両者の推定年齢(1号は壮年、2号は約7歳位と推定された)から両者の間には母子関係などの非常に近い血縁関係があったものと考えられたが、形態学的所見からは両者の血縁を積極的に示唆する所見は得られなかった。そこで、ミトコンドリトアDNAの高多型領域Iのうち、特に多型性の高い部位(No.16209-16402)の塩基配列を解析し、両者間の母系の血縁関係の存否を検証した。第1号人骨については右下第1大臼歯、右下第2小臼歯、右大腿骨の一部を、第2号人骨については右下および左下第2乳臼歯を試料として用いた。第1号人骨については、右下第1大臼歯を試料とした3セットのPCR産物をそれぞれクローニングし、塩基配列解析すると、Cambridge Reference Sequence(CRS)に一致する塩基配列が共通してみられた。また、この塩基配列は右下第2小臼歯、右大腿骨を試料としたPCR産物のクローンにもみられたが、これらの試料においてはこの塩基配列は2セット中1セットのPCR産物のクローンにしか出現しなかった。第2号人骨についても、CRSに一致する塩基配列が右下および左下第2乳臼歯を試料としたPCR産物のクローンにみられた。しかし、この塩基配列は2セット中1セットのPCR産物のクローンにしか出現しなかった。以上より、試料本来の塩基配列を確実に決定するには至らなかったものの、第1号および第2号人骨は検査した範囲内においてCRSに一致する塩基配列を共有している可能性があり、両者が同じ母系に属する可能性が考えられた。
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