北海道伊達市・有珠モシリ遺跡における1988年度の第4次調査で発掘された、岩塊の間に掘り込まれた墳墓(16号墓)に合葬されていた成年女性人骨2体(16A号および16B号)について、遺伝学的、形態学的、考古学的手法を用いて血縁推定を試みた。埋土中の土器の形式(大洞A式)から、これらの人骨は縄文時代晩期のものと推定された。埋葬の状況からこの2体は同時埋葬と考えられ、また、両者の上肢には南海産のオオツタノハとベンケイガイ製の貝輪が装着されており、両者の間には密接な血縁関係があった可能性が考えられた。そこで、ミトコンドリアDNAの高多型領域Iのうち、特に多型性の高い部位(No.16209-16402)の塩基配列を解析したところ、両者の塩基配列は全く異なっており、両者の母系の血縁関係は完全に否定された。さらに、両者の永久歯歯冠計測値のQ-モード相関係数は、いずれの歯種の組み合わせにおいても低いか、あるいは負の値を示し、形態学的見地からも両者の血縁関係の存在は否定的であった。遺伝学的、形態学的検査の結果を併せ考えると、この両者の間に血縁関係は存在しない可能性が高いものと推定された。
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