北海道伊達市・有珠モシリ遺跡における1985年度から1988年度の調査で発掘された2体合葬人骨(若年者2体合葬の3A・3B号および成年女性2体合葬の16A・16B号)について、遺伝学的、形態学的、考古学的手法を用いて血縁推定を試みた。出土した遺物から、3A・3B号は続縄文期、16A・16B号は縄文時代晩期のものと推定された。また、埋葬の状況からこれら2組の合葬人骨はともに同時埋葬と考えられた。3A・3B号は若年者の合葬であり、16A・16B号の上肢にはともに南海産のオオツタノハ製の貝輪が装着されていたことから、これら2組の合葬人骨の間には密接な血縁関係があった可能性が考えられた。そこで、ミトコンドリアDNAの高多型領域IおよびIIのうち、特に多型性の高い部位の塩基配列を解析したところ、3A・3B号では検査した部位が完全に一致し、母系の血縁関係が示唆されたが、16A・16B号では両者の塩基配列は全く異なっており、母系の血縁関係は完全に否定された。さらに、これら人骨の永久歯歯冠計測値のQ-モード相関係数をみると、3A・3B号ではいずれの歯種の組み合わせにおいても非常に高く、両者の血縁関係が支持されたが、16A・16B号ではいずれの歯種の組み合わせにおいても低いか、あるいは負の値を示し、形態学的見地からも両者の血縁関係の存在は否定的であった。遺伝学的、形態学的検査の結果を併せ考えると、3A・3B号は密接な母系の血縁者であり、16A・16B号には血縁関係は存在しない可能性が高いものと推定された。
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