研究概要 |
本研究は、ヒトの身体と心に重要な影響を与える性腺ステロイドの変異・加齢変化パターンを、進化生物学的・人類学的に検討する総合研究の一環として、日本人集団における唾液中遊離型ステロイドホルモン値の基礎データの蓄積と分析を行う。平成13年度は日本人男女を対象に、唾液資料の採取、遊離型ステロイドホルモン(testosterone,progesterone,estrogens)の測定を実行した。尚、資料採取、測定、分析は継続中である。予備的な分析結果から示唆される点は、以下の通り。1)資料集団内において、男性のテストステロン値と空間認知能力(MRTスコア)には統計的に有意な相関はない。2)男性のテストステロン値(採取時間_10-12時)を、若年齢層(20代 n=81)と高齢者(90才 n=25)とで比較した場合、違いはその変異パターンに見られた。前者が顕著な変異を示すのに対し、後者グループはより均質である。また、高齢者のT値分布は若年齢集団内の低T値グループのものに相当する。加齢のパターンやそのメカニズムは単純ではなく、従来、欧米の内分泌学において常識となっている「加齢変化における必然的なT値の減少」は再検討されるべきである。特に、加齢に伴う変異パターンの変化の分析は重要である。平成14年度は、更に資料数の少ない年令グループからの唾液資料を採取し、男女において包括的な変異・加齢変化パターン分析が可能なように努力する。また、生体計測値、認知的指標と遊離型ステロイドホルモン値の関係を解析し、エール大学の海外共同研究者とともに、他集団との比較も行う。
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