本研究は、日本人集団で男女15-90歳代を対象に、唾液中遊離型ステロイドホルモン(Testosterone)について集団内変異・加齢変化パターンを分析し、遊離型ホルモン値と身体形質、心的活動(空間認知能力:MRTなど)との関係を検討した。得られた結果は以下の通りである。 1)男性の遊離型テストステロン(T)値の加齢パターンは、欧米集団と同様20代に平均値のピークがあり30代で減少するが、40代から90代では有意な減少は見られない。 2)男性のT値は20代では極めて変異が大きく、20代から50代にかけての平均値の減少は、高い値を示す個体の減少によるものである。 3)男性のT値の加齢現象の特徴として、欧米で一般に認識されている日内変動の減少は、日本人集団では見られなかった。個体の日内変動幅と高T値の相関は顕著に高い。60-70代でも比較的高T値を示す個体は日内変動は保たれており、これは、脳神経・内分系のフィードバックシステム機能が健やかな証拠である。中-高年へのホルモン補填治療が行われる際には、まず内分泌システム機能レベルを把握する必要がある。 4)欧米の集団の空間認知能力は女性でT値が高いほどが高く、男性ではカーブリニアな関係が報告されている。日本人では女性ではこの傾向は確認できない。男性では低T値個体は高いMRTを示すが、高T値でMRT低下の傾向はない。 5)90才男性でのT値は痴呆の目安-MMSと正の相関を示すが有意ではない。高齢者におけるテストステロンの認知機能への影響は、MMSでは検出できない。空間-視覚的な機能に限定される可能性が高い。 6)90才男性ではテストステロン値の高いほど骨密度が高く、身体の自立的維持に効果があると考えられる。 7)90才女性のT値は15-30代女性に比べ分散が大きく平均値も高い。男性のようにMMSや骨密度とは正の相関を示さない。
|