研究概要 |
走査型プローブ顕微鏡を用いて強磁性トンネル接合の局所的なスピン伝導特性を調べるために,以下に示す項目を検討した. 1.低抵抗トンネル素子の作製 プラズマ酸化,ラジカル酸化および自然酸化法を用いて,金属Alの膜厚を0.6nm-0.8nmとした低抵抗強磁性トンネル接合を作製した.ラジカル酸化および自然酸化では熱処理前の磁気抵抗比が10%以下にとどまったのに対して,プラズマ酸化法を用いると30%以上の磁気抵抗比が得られた.金属Alの初期の酸化過程が酸化方法の違いにより異なることに依存すると結論した.また,ラジカル酸化による接合は350℃の耐熱性を有することを示した. 2.接合界面の構造,電子状態 それぞれの酸化方法により作製したAl酸化絶縁膜の初期酸化過程を走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察した.自然酸化,ラジカル酸化においては金属Alの表面にアモルファス状に酸化膜が形成されるのに対して、プラズマ酸化による酸化膜は表面で再構築したAl_2O_3の結晶構造をもつことがわかった. 3.弾道電子放出顕微鏡の製作 弾道電子放出顕微鏡(BEEM)を製作した.装置の母体は既存のトンネル顕微鏡で,BEEMの構成にするために,既存の装置の基板バイアス方式から探針バイアス方式へ変更するためのプリアンプの製作を行った.これを用いて,表面が自然酸化したSi単結晶上に成膜した金膜の疑似トンネル接合表面を観察し,探針バイアスにても問題なく動作することを確認した.また,Alの膜厚が0.8nmの強磁性トンネル接合を作製し,探針と接合の下部電極間にバイアスを印加して電流像および局所的な電流-電圧特性を測定した.電流像は強磁性トンネル接合の絶縁層の分布を反映した変化を示すことを明らかにした.
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