研究概要 |
走査型プローブ顕微鏡を用いて強磁性トンネル接合の局所的なスピン伝導特性を調べるために,以下に示す項目を検討した. 1.高品位トンネル素子の作製 高品位の絶縁層を有するトンネル接合を作製するために,単結晶基板上に下部磁性層を成長させた.Si(111)基板上にAg/Cu層がエピタキシャルに成長することを確認した.この磁性層を用いて作製した強磁性トンネル接合は,耐バイアス依存性に優れていることを明らかにした. 2.非弾性電子トンネル分光による絶縁層の解析 様々な構成の強磁性トンネル接合に対して,非弾性電子トンネル分光を行い,絶縁層および絶縁層/強磁性層界面の電子状態の解析を行った.界面に非磁性金属を挿入すると,ゼロバイアス近傍のスペクトルが上昇し,20mV近傍のピークが減少することがわかった.これは,界面の不純物散乱およびマグノン散乱を反映していることを明らかにした.またエピタキシャル成長させた下部磁性層を有する強磁性トンネル接合では,両磁性層の磁化が平行状態のスペクトルが顕著に減少した.これは,接合界面の不純物が大幅に減少していることを反映していることを明らかにした. 3.局所トンネルスピン伝導 走査型トンネル顕微鏡を用いて,成膜直後の絶縁層表面を,真空を破ることなく測定することに成功した.酸化が金属Al膜の粒界から進行し,さらに,酸化方法によってその進行の過程が異なることを明らかにした.また,弾道電子放出顕微鏡(BEEM)により,強磁性トンネル接合の内部のスペクトルを測定し,表面トンネル顕微鏡像とは異なる,絶縁層のバラツキを反映した像を得た.
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