研究概要 |
本研究は,現有設備の単収束磁場型質量分析計(Mass)を用いて,カーボンナノチューブ(CNT)から電界蒸発により生成される炭素クラスターの質量数を正確に同定し,これまで既に発見されているC_<20>^+の大量生成条件を調べると共に,高質量域での新規マジッククラスターの探索を行なうことを目的とした.平成13年度は,質量数同定の精度を上げるためにMassの排気系を総てオイルフリーなポンプに交換し,さらにガス導入系を増設した.そして,電界蒸発実験中のMass試料室内に高純度キセノンを導入し,その同位体の電界電離スペクトルをレファレンスとして同定を行った.その結果,作製方法および精製法の異なる7種類のCNT試料において,C_<20>^+はマジッククラスターとしては観測されず、新たにC_<29>^+およびC_<32>^+が,これら7種類のCNTに共通のマジッククラスターであることが判った.気相成長炭素繊維以外の未精製の試料では,炭化水素群C_mH_n^+(m≧10,1≦n<12)が検出された.C_<20>^+が観測されなかった理由は今なお不明であるが,排気系交換によりMass試料室内の到達圧力は1〜2桁向上しており,C_<20>^+の生成過程に真空槽内の雰囲気が強く影響しているものと思われる.平成14年度は,印加電界強度に対する各種イオン強度を測定し,C_<29>H_n^+およびC_<32>H_n^+が約5[V/nm]から生成され始めることが判った.測定後の試料から得られる電界放出顕微鏡像は,多くのリング状のパターンを示し,CNT先端で電界蒸発が起こり,先端が開いていると考えられる。本研究で得られた知見は、炭素系ネットワーク針状物質を陽極に用いることで、特定の質量数(C_<29>およびC_<32>)の炭素クラスターイオンビームを得る新しいイオン源開発の可能性を示すものである。
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