本研究の目的は、物質科学、特に表面の磁気的特性を調べる上で強力なプローブ粒子となり得るスピン偏極ヘリウムイオンに着目し、スピン偏極度の極めて高いヘリウムイオンビームを効率良く生成する技術を確立することにある。そのために、電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope : FIM)における結像ガスのイオン化過程として知られている電界イオン化現象に着目し、スピン偏極したヘリウムイオンを選択的に高効率(原理的にはほぼ100%)で生成する手段の提案と実験的な検証を行う。実際にスピン偏極したHe^+(1^2S)イオンが生成出来ているかどうかを確認する最も直接的な方法は、生成イオンのスピン偏極度を測定・評価することであるが、先ずはそのようにして生成したイオンの持つ運動エネルギー分布を評価することにより、イオン生成の物理的機構の詳細を明らかにし、本研究の提案するスピン偏極イオン生成過程に対するモデルの妥当性を裏付けることを目標に研究を実施した。 平成13年度は、前年度までに改良を続けて来たFIM装置を使って、ニッケル試料探針上でヘリウム原子を電界イオン化させる実験に着手した。生成されたヘリウムイオンをマイクロチャンネルプレート(MCP)により検出し、その検出信号はオシロスコープにより確認出来た。また、その実験と平行して、改良型FIM装置の実験上の制約および限界を克服するために新しいイオン源用真空チャンバーの設計・製作を進めたが、平成14年2月中旬に研究室への搬入を終えた。 平成14年度には、イオン検出信号をスペクトル化するための計測システムを導入し、イオンの運動エネルギー分布測定の準備に取り掛かった。この計測システムは、十分機能しており、運動エネルギースペクトルを得る上で問題ないことが確認された。イオンの出射位置を特定した上でスペクトルを計測することが、残された課題である。
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