ポリシランからのEL (Electroluminescence)発光は、PL (Photoluminescence)発光域(〜360nm)に加えて、可視部にブロードな発光域(400nm〜700nm)をもつ。この原因は、陰極を蒸着する際に金属微粒子がポリシラン表面を侵食し、ポリシラン主鎖の切断再結合により主鎖上に分岐が生じるためであると考えられている。 そこで本年度の研究では、ポリシラン表面を侵食から保護するため、均質で薄い絶縁層としてLB (Langmuir-Blodgett)膜を用いてPoly(methylphenylsilane) EL素子の効率化を試み、以下の結果を得た。 (1)アラキジン酸(CH_3(CH_2)_<18>COOH)を用いたLB膜作製の最適条件を表面圧(π)-面積(A)等温線の解析により調べた。アラキジン酸濃度2.0mg/ml、滴下量30μl、下層水のPH6.7、下層水にBaCl_2・2H_2Oを添加するという条件のときに最も崩壊圧が高く(64.0mN/m)理想的な形のπ-A曲線が得られた。なお、アラキジン酸の溶媒としてクロロホルムを用いた。 (2)EL素子を作製し、LB膜挿入の効果を調べた。 ITOガラス基板上にPoly(methylphenylsilane)をスピンコートし、その表面にアラキジン酸LB膜を転写し、更にその上に陰極として、Mg:Agを蒸着した。LB膜を挿入しない素子のELスペクトルは360nmの紫外部と500nmと580nmにピークをもつブロードな可視部発光域をもつ。ところが、アラキジン酸LB膜を一層挿入したEL素子の発光スペクトルでは紫外域、可視域ともに発光強度の大きな増加が見られた。特に可視域では、550nmにピークをもち可視域全域(400nm-700nm)に亘るスペクトルを示した。 LB膜挿入の当初の目的は、可視発光を低減し紫外発光強度を増加させることにあったが、結果として紫外発光強度の増加が見られたものの、可視部発光は予想に反して増加した。この原因は絶縁層としてのアラキジン酸によるものとは考えられず、LB膜作製操作によるポリシランの表面改質と思われる。ただ、この原因の解明により、ポリシランを白色光源とする研究への新しい道が開かれると期待される。
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