バクテリアの推進に関して観測される、従来の理論では説明できない現象(バクテリアが遊泳する環境の粘度を高分子添加により上げたときに、遊泳速度が上昇する)を解明することを目指し、実験的・理論的研究を開始した。 実験的研究として、単毛性のビブリオ菌を対象に、回転中のべん毛が変形しているかどうかを調べた。レーザー暗視野顕微鏡を用い、べん毛らせんピッチが、遊泳速度やべん毛回転数に依存して変化する様子を観測できた。観測されたピッチの変化率は、最大で5%程度であった。 理論的研究としては、マイクロ世界に特有な上記現象を記述するための流体力学的モデルを構築した。特に、従来理論では等方的なものとして扱われてきた流体力が、マイクロ世界では異方性をもつという仮定(流体力異方性仮説)を取り入れた。べん毛に働く流体力の、法線方向成分と接線方向成分の比率が、高分子濃度に依存するとして構築したモデルにより、高分子添加に伴う遊泳速度上昇を説明できることが分かった。 今後は、流体力異方性仮説の正否を確かめるため、形態の異なる高分子を添加したときの、べん毛回転数と遊泳速度を測定し、べん毛の推進効率(指標として、"遊泳速度/べん毛回転数"に着目)が、高分子にどのように影響されるかを調べる。添加する高分子としては、線状のPVP(ポリビニルピロリドン)、メチルセルロース、ならびに球状のフィコールを使用する。あわせて、バクテリア遊泳速度に対するべん毛変形の影響についても評価する。
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