これまで材料力学、生体力学の研究者は人工股関節、特に人工骨頭とステムについて応力緩和だけを目指した形状最適化の研究を報告してきた。しかし、最近の整形外科の研究者が指摘しているように、現在も使用されている接着剤としてのPMMA骨セメントは生体不活性材料であるため人工材料製の人工臼蓋と生体骨の接着に使用しても生体骨の異物反応により、人工臼蓋と生体骨の間にコラーゲン線維膜が生成し直接接合しない。また、高血圧の70歳を越える高齢者にPMMA骨セメントを使用して施術した際に、急激な血圧低下に伴うショック死が過去3年間に20数例起こったことが新聞にて報告された。このような人工材料製臼蓋と生体骨の間の生体適合性を解決するために、人工股関節と生体骨を一つの不均質中空半球体と見なし、骨頭と接触する中空半球体の内側半球面から骨盤と接合される外側半球面まで半径方向に材料組成を変化させて、即ち傾斜機能材料(FGM)製の人工股関節(臼蓋)として、その材料組成を最適化することが必須である。 本研究では、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、UHMWPEとAW-バイオガラスの傾斜層、多孔質AW-バイオガラスからなる人工臼蓋を生体内に埋入したあと、骨の成長により多孔質AW-バイオガラスの孔内に骨が侵入することを利用して生体骨と接合させるモデル(多孔率の傾斜化によりAW-バイオガラスと生体骨の傾斜層が生成)について、内側半球面に楕円形分布荷重を動的に負荷した場合を解析し、従来の、UHMWPE製の臼蓋をPMMA骨セメントにより生体骨に接合させる(実際には接合していない)Charnleyタイプと比較することにより、人工臼蓋および隣接する生体骨内に生じる応力比(強度との比)、変形が40%以上緩和され、生体適合性も具備した人工臼蓋が設計できることをFEM解析結果から明らかにし、下記のように学会発表した。次年度は傾斜層の材料組成の最適化を遺伝的アルゴリズムを応用して実現することと、骨頭と臼蓋との接触を考慮した接触問題としての解析を実行する予定である。なお、中空半球体の端面の境界条件の制約から特定の境界条件に関してのみ完成している数理解析法も次年度の始めにその一般化を完成させる。菅野、他4名、生体活性性のある傾斜機能材料製人工股関節の材料設計と動的応力/変形解析、第13回傾斜機能材料シンポジウム、講演要旨集、p.10、平成13年11月29日(大阪大学)。
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