研究概要 |
培養内皮細胞内のストレスファイバーが基質を通して繰返し変形を受ける場合の配向角について,2種類の仮説についてその妥当性を検証した.一つ目の仮説は,ストレスファイバーは時々刻々生じるストレスファイバーの長さの変化(絶対値をとる)の総和が最小になる方向に配向し,細胞の力学的刺激に対する感度には限界があるというものである.二つ目の仮説は基質が最も変形したときのストレスファイバーの長さの変化がある限界値以下となる方向に配向するというものである.数値シミュレーションは基質の単軸繰返し負荷(細胞は一方向に伸展・弛緩され,それに直角な他方向は応力零),単軸繰返し変形(細胞は一方向に伸展・弛緩され,基質面上のそれに直角な他方向に変形を拘束され,面の法線方向は応力零),等二軸繰返し変形(細胞は基質面上の直交する二方向に同量の変形を受け,面の法線方向は応力零)の3種類とした.また,細胞は基質と同量だけ一様に変形し,高さ方向には非圧縮条件を満足するように変形するものと仮定した. ストレスファイバーが細胞内に3次元的に配向するものとして,上述の各条件に対して数値シミュレーションを行った結果,単軸繰返し負荷,単軸繰返し変形とも文献の観察結果に見られる基質面に沿った配向だけでなく,面外方向の配向も上述の仮説から予測されることがわかった.また等二軸繰返し変形で観察された面外方向の配向はいずれの仮説を用いた場合についても予測された. 以上の結果から,ストレスファイバーの配向は力学的側面のみを考慮した仮説では十分に説明できない現象であるのか,あるいは,実際にはストレスファイバーの3次元的配向が生じているにもかかわらずこれまで観察されてこなかったことが考えられ,詳細な検討が必要なことが示された.
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