研究概要 |
基質に接着した血管内皮細胞が繰返し変形を受ける際,ストレスファイバーのひずみがある限度内であればその方向に配向できるという仮説を立てた.ストレスファイバーの受けるひずみを細胞の変形を考慮して詳細に検討した結果,細胞が基質を通して受ける変形と,ストレスファイバーが細胞内に存在する位置と配置(細胞底面上の配置,細胞表面と細胞底面を結ぶ配置,細胞表面の2点を結ぶ配置)によって,ストレスファイバーの配向可能な方向が異なることが定量的に示された.また,アクチンの濃度とアクチンフィラメントが受ける累積ひずみ(力学的刺激の蓄積)を考慮したアクチンフィラメントの重合・脱重合現象に関する数値シミュレーションの結果,繰返し変形下におけるストレスファイバーの形成過程(成長や消滅)を記述する上で本手法が有用なことがわかった. シリコンゴム膜を基質とした培養内皮細胞と血管内腔面上の内皮細胞に対して有限要素モデルを作成して解析を行った.前者は細胞質と核からなる孤立した細胞が基質に接若したモデル,後者は細胞質と核からなる細胞が血管壁に接着した周期的モデルである.また,前者のモデルではNeo-Hooke体とし,後者のモデルでは血管壁を非線形の超弾性体とした.培養内皮細胞モデルによる解析の結果,細胞内のひずみ分布は基質に加えたひずみが細胞上部ほど滅少し,細胞上部のひずみの大きさは細胞の高さの直径に対する比が小さいと基質のひずみに比べてあまり滅少せず,比が大きくなると零に近づく.基質の変形に伴う核の変形量の予測については,ひずみを小さめに見積もるものの,本モデルでほぼ再現できた.血管内皮細胞モデルによる解析の結果,孤立した細胞の場合に比べて細胞上部までひずみが大きく,細胞上部ほどひずみが滅少する傾向が見られた.細胞内部のひずみ分布は核の存在する影響によって,複雑であった.
|