研究概要 |
電子デバイス等の機能性材料やトライボロジー的観点から機能性薄膜被覆材料は広範な用途があるが,それらの実用時における健全性も同時に保証する必要がある.本研究では,このような機能性薄膜被覆材料についてその創成,構造さらに変形を分子動力学法により一貫して解析できる統合的手法を構築し,その妥当性を実験的に検証した.まず,前年度に構築した上記のような分子動力学法による統合的解析手法を用いた解析により,1)気孔が小さいとき表面近傍の気孔が主に硬度特性に寄与し,また硬度特性は薄膜の充填率によりよく整理できること,また2)薄膜の充填率を増加させると硬度は増大し,薄膜の水平方向への引張強度に関しても向上することが判明している.本年度は,これらの解析結果の妥当性を検証するため,AlおよびSiCをスパッタリング法によりホウケイ酸ガラスに被覆し,種々の機械的特性を実験的に明らかにした.その結果,a)表面性状の優れた被膜,高硬度かつ高強度の被覆材料を得るにはスパッタリング条件として初期基板温度を低く,またスパッタ時間を短くすることが望ましいこと,b)被膜表面気孔率は,気孔率が大きくなると表面粗さは粗くなるが,被膜硬度に影響を及ぼさないこと,c)被膜硬度が高い被覆材料ほど曲げ強度も高くなることが明らかになった.上述の実験結果のうち被膜硬度と強度特性の関係については,前年度解析により得られた結果の傾向と定性的に対応している.ただし,解析では被膜表面近傍の気孔が硬度特性に影響するのに対して,実験では気孔率は硬度に影響を及ぼさないが,この相違は実験では基板材の硬度も含んだ硬度が計測されていることに起因している.したがって,以上を総合的に判断すると,本研究で提案した分子動力学法による統合的解析手法は妥当なものであり,薄膜被覆材料の健全性評価にも適用しうるものであるといえる.
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