研究概要 |
熱応力による曲線的なき裂進展を基本的に理解するため,まず熱源に対するき裂の追従性を実験的,解析的に検討した.100mm×100mm×1mmガラス板に炭酸ガスレーザを照射し,加熱により熱応力を発生させた。端部から発生した縁き裂を進展させ,ガラス板中央付近で熱源進展経路を急に変更したときのき裂進展の様子を観察すると,き裂は熱源経路を正確にはたどらず熱源経路に内接する曲線を描きながら熱源に追従する.このとき加熱量や熱源速度に依存して進展の加速や遅延が発生する.このようなき裂進展挙動を有限要素法による非定常熱伝導,熱応力解析から解釈した.すなわち,定常状態ではき裂先端は熱源後方を一定距離離れて追従するが,熱源速度が遅いほどその距離は小さい.そこで,一定速度で移動する熱源が直線からそれると,き裂線上に投影した熱源移動速度成分が小さくなることに相当し,き裂は加速して熱源により近づくことになる,また,.熱源経路の方向転換は経路によって囲まれた内側領域の温度を加熱領域温度と同等程度に上昇させ,あたかも熱源がそこに停滞しているような温度場を形成する.この温度場による圧縮応力場をき裂はしばらく突き抜けることができず,き裂進展が停滞すると考えられる. つぎにき裂進展のシミュレーションを行い,き裂進展のタイミングや経路が実験とよく一致することを確かめた.その際き裂屈折条件として,(1)き裂先端の特異性のみを利用し,σ_θを最大にする方向に屈折する,(2)進展量を仮定しき裂進展後のモードII特異性が消失するような角度に屈折するという2種類を利用した.前者は圧縮のT応力の影響を考慮していないため,進展後屈折角度を修正するモードII異性が現れ,き裂進展経路がジグザグに推定される.後者はき裂先端のT応力の影響が考慮でき,推定されるき裂進展経路は滑らかである.しかし,進展方向の決定に繰り返し計算が必要になる. き裂進展前の特異応力場とT応力のみで進展後のモードII特異性が消失する方向を推定できる方法や進展距離を大きくとったとき曲線経路を推定できる方法等について研究を進める予定である.
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