研究概要 |
自由縁の影響を受けない広い板の中央部分ではもちろん,自由縁近傍でも熱源を緩やかな曲線に沿って移動させれば,き裂が熱源移動軌跡に沿って進展し,直線的な熱応力割断の場合と同じように曲線割断が可能であることが実験により確認できた.また,直径200mm,厚さ1mmのガラス円板の外周から半径方向に予き裂を導入し,縁から10mm,5mmの円周上に炭酸ガスレーザを照射し移動させれば,き裂はその先端の角度位置に依存せず,熱源後方ほぼ一定の距離を保ちながら全周にわたり熱源を追従し,結果的に直径を減じた円板に加工することができた.このことは初期き裂導入位置からのき裂長さに依存せず,どこでもき裂先端で同じような応力特異性が生じていることになる.2次元非定常熱応力場の解析によれば,き裂先端位置によらずモードI,モードIIの熱応力拡大係数ともほぼ一定値を示した.また,自由縁に近い円周を割断経路とすると割断面に倒れが生じるが,加工上は面の倒れが抜き勾配として作用するため円板抜き取りには好都合であり,倒れの補正は不必要となった. 温度場に対応する無限板の熱応力場と境界を自由表面にする等温弾性場との重ね合せによるき裂先瑞周りの熱応力特異場の解析では,境界に加えるべき表面力の大きさや分布がき裂先端の角度位置に大きく依存している.結果的に応力特異性はき裂先端位置に依存しなくなるが,その理由の説明が困難であった.しかし,熱応力割断を利用する材料や用いる熱源移動速度では,通常,熱源周りの温度場はほぼ準定常状態になっていて,有限要素法による熱応力場解析では,要素毎の熱膨張による初期ひずみを重ね合せることになっているので,熱源のごく近傍の温度場が支配的になることが理解できた.すなわち温度変化を圧力中心に置換えることにより,き裂先端位置によらずほぼ等しい応力特異性を示すことになることが言えた.同様のことは矩形板の直線割断に対しても言える. 圧力中心による応力特異性評価を前もって準備しておけば,実験条件に対する準定常温度場を用いて熱応力特異性が簡便に算定できる.
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