研究概要 |
従来,すべり案内される運動体の運動挙動の解析や,すべり案内を含むサーボ機構の解析やシンセシスにおいては,Streibeck曲線を基に案内面に発生する摩擦力の解析モデルを構築してきた。しかし,Streibeck曲線が一方向に一定速度で運動する定常状態での摩擦力の速度特性であるため,運動方向の反転や運動の停止などを含む非定常な運動を前提とする工作機械などのサーボ機構の場合には,このモデルは有効に機能しない。 本研究は高い位置決め分解能と高い剛性を有する力操作型位置決め機構を用いて,すべり案内されるスライダの微小往復運動時の変位と摩擦力を測定し,運動方向の反転を含む非定常な運動におけるすべり案内面の変位一摩擦負荷特性を明らかにした。この変位-摩擦負荷特性が,スライダの運動履歴や数値制御位置決め制御系における基本運動単位である微小ステップ運動のステップサイズや,微小ステップ運動の過渡特性(オーバーシュート量)と関連して,精密位置決め機構の運動特性や制御動作に大きな影響を与えることを示した。また,運動方向と同じ方向の摩擦力が発生する現象を,この変位-摩擦負荷特性から説明した。 さらに,このすべり案内面の変位-摩擦負荷特性の数式モデルを提示し,これに基づくシミュレーション回路を開発してすべり案内位置決め制御系のシミュレーションを行い,シミュレーション回路が有効であることを確認した。 これらの成果は,すべり案内面の摩擦挙動の研究に新しい知見を加えるばかりでなく,すべり案内を必要とする精密測定器や高精度工作機械の位置決め制御系のシンセシスに有用で,ナノメータレベルの位置決め分解能を要求される数値制御精密運動機構を基盤技術とする技術分野に有益な情報を提供する。
|