本年度は、幾何品質記述をもった機械製品モデルのコンピュータ上への構築法を検討し、この製品モデルを利用して製品の挙動から劣化状態を予測するシステムを構成するための準備を行なった。 その方法は、次のとおりであった。 1.市販の3次元CADソフトウェアを用いて、例題製品の形状モデルを作戌した。 2.劣化状態を表現するために既存の幾何公差の概念を拡張し、部品形状の偏差や劣化による変形を表現するためのパラメータである「形状公差」表現と、幾何要素同士の接続関係を表す構造に対応する「幾何関係拘束」表現からなる「幾何品質表現」の枠組みを、製品モデル内に導入する方法を提案した。 3.磨耗等の幾何的な劣化が生じるのは、異なる部品間の2つの幾何要素が接触した状態で相対運動をする部分である。このような部分に定義された幾何関係拘束に対して、さらに「可動要素」表現を規定した。通常、ひとつの製品機能発現単位である「機構」は、複数の可動要素で構成されている。ひとつの機構に対してひとつの原因リストを生成し、このリストに、対応する機能要求に影響を与える機構の可動要素の組み合わせを列挙し、その挙動への影響を機構挙動シミュレーション用ソフトウェアを用いて算出し、リスト中に記述した。 4.次に、運用段階を経た製品の使用履歴から満たされていない機能を見つけ、その元の機構に対応する原因リストから、各可動要素の劣化状態を推定した。選ばれた原因リスト内で、各可動要素について予測された複数の組み合わせの中から、最大の幾何的変形量を選び、対応する幾何関係拘束に対する推定変形とした。 5.さらに、幾何関係拘束に対して推定された変形を、可動要素を構成している各幾何要素の形状公差に配分し、各幾何要素の最大劣化量を予測する方法を提案した。
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