繰り返しを伴う金属の乾燥すべり摩耗において、初期の摩耗量は多いが摩擦距離が増えると極めて摩耗速度が小さくなるシビアーマイルド摩耗遷移が生じる。マイルド摩耗では、酸化摩耗粉が摩擦表面に固着して金属同士の凝着を防ぐので、摩耗粉の生成速度やその摩擦面への固着速度が影響すると予想される。したがって、摩耗粉の代わりとなる粉末を積極的に供給し、それを繰り返しすべりにより摩擦表面に固着させることができればマイルド摩耗を達成できると期待できる。本研究課題では、鋼同士の繰り返しすべり摩耗において、粉末を摩擦面に供給し、その粉末の種類、粒径、硬さ、量が及ぼすマイルド摩耗への遷移の影響を明らかにすることを目的としている。 摩耗試験は、ピンオンディスク摩耗試験機を用いて、炭素鋼S45Cの試験片で、油潤滑無しの大気中において、試験荷重4.9N〜49N、摩擦速度0.05〜0.5m/s、試験時間60分の条件で行った。本年度では、粉末の種類として、カーボニル鉄粉(粒径6.4μm)、ガス中蒸発法で作成したFeナノ超微粒子粉末(粒径20nm)、気相反応法で作成したFe_2O_3ナノ超微粒子粉末(粒径30nm)、Fe_3O_4マグネタイト粉末(粒径6.1μm)を用いた。これらの粉末は、摩耗試験開始直後のディスク摩擦面に0.1gまたは0.5g添加した。 Feナノ超微粒子粉末(粒径20nm)を添加した場合には、摩擦面上で鉄の酸化による発熱反応が一気に進み供給したFe粉末が酸化鉄になってしまったため、試験を中止した。カーボニル鉄粉を供給した場合の摩耗曲線では、粉末無しの場合の摩耗曲線と同様にマイルド→シビア摩耗遷移が現われ、むしろカーボニル鉄粉を添加した方が摩耗が激しく、ほとんど効果が無いことが分かった。しかし、Fe_2O_3ナノ超微粒子粉末、Fe_3O_4マグネタイト粉末を添加した場合においては、ピンの摩耗体積が試験開始から試験終了までほとんど増加しないマイルド摩耗を示した。すなわち、これらの粉末では、シビア摩耗を抑制しマイルド摩耗を促進させる効果が得られ、1/40〜1/200と大幅に摩耗量を低減できることを明らかにした。
|