繰り返しを伴う金属のすべり摩耗には、シビア摩耗とマイルド摩耗の2種類があり、摩擦距離が増えるとシビア→マイルド摩耗遷移が起こる。マイルド摩耗では、酸化摩耗粉が摩擦面で固着・焼結されて酸化膜(トライボ膜)が生成し、このトライボ膜により金属同士の凝着が抑制されて低摩耗になると考えられる。したがって、酸化摩耗粉の代わりに表面エネルギーの大きいナノメータサイズの酸化物超微粒子を摩擦面に供給すれば、摩擦面でトライボ膜がより生成し、マイルド摩耗遷移が促進されると期待できる。 本研究では、粒径が数10nm〜数100nmのFe_2O_3粉を鋼の摩擦面に供給し、その粉末粒径や試験荷重がシビア→マイルド摩耗遷移に及ぼす影響を調べた。また、シビア→マイルド摩耗遷移における摩擦面の変化の様子を詳細に観察し、摩擦面のトライボ膜の生成状況を明らかにした。 実験方法は、ピンオンディスク摩耗試験を行った。ピンとディスクの摩耗試験片はS45C焼ならし材を使用し、試験粉末はディスク摩擦面に供給した。供給した粉末は、粒径が30nm、300nm、500nmのα-Fe_2O_3粉3種類である。トライボ膜の生成過程を調べるため、デジタルマイクロスコープ顕微鏡で摩擦面を観察し、さらに、画像解析処理ソフトにより摩擦面に生成したトライボ膜の面積率を測定した。 本研究の結果、次の結論が得られた。 (1)30nmのFe_2O_3粉を摩擦面に供給すると、いずれの場合においてもシビア→マイルド摩耗遷移が現れる。 (2)供給したFe_2O_3粉の粒径が小さいほど、また、荷重が小さいほどマイルド摩耗に遷移する摩擦距離は短くなる。 (3)マイルド摩耗に遷移した摩擦面では、黒っぽく見える部分(トライボ膜)が島状に観察される。 (4)摩擦距離が増えるにしたがって、摩擦面のトライボ膜は生成と消滅を繰り返しながら増えていく。また、シビア摩耗の過程でもトライボ膜はすでに生成していて、シビア→マイルド摩耗遷移が生じた瞬間の摩擦面には大きな変化はない。 (5)供給したFe_2O_3粉の粒径が小さいほどトライボ膜面積率は大きく、トライボ膜が生成されやすいためにマイルド摩耗を促進する。また荷重が大きいと試験開始直後でトライボ膜面積率は大きくなるが、マイルド摩耗になるためのトライボ膜面積率は大きい。
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