研究概要 |
本研究の主な目的は,壁面乱流において,乱流状態と共存するサドル状定常解を安定化することで壁面摩擦抵抗低減,あるいは運動量輸送促進などの乱流制御を実現することである. 本研究課題の初年度の平成13年度には,まず壁面乱流としては最も基本的な平面クエット流を直接数値シミュレーションにより調べ,同一レイノルズ数において乱流状態と共存する1つの不安定定常解と2つの不安定周期解を発見した.発見された定常解は,従来から知られている,いわゆる永田の下分枝解であることが判明した.本研究では,系の時間発展を数値的に追跡する直接数値シミュレーションにより,不安定なために本来この種の方法では得られない永田の解が求められたことから,今回得た解がごく低次元の不安定多様体を伴うサドル解と判断した.この解は,乱流状態に比べてはるかに静穏な特性をもち,摩擦抵抗も乱流状態に比べて非常に低くなっている.したがって,このサドル解の不安定多様体を安定化する制御を系に対して施すことによって,乱流制御を実現する可能性が示唆された.さて,シミュレーションで発見された不安定周期解のうちの1つは,永田の解から分岐した周期解であり,永田の定常解に類似した性質をもつことがわかった.一方,もう1つの解は,乱流自身の特性をうまく表現しており,壁面乱流を支配する再生・維持サイクル(ストリークや縦渦といった乱流中の秩序構造が互いを生成し合う結果として閉じたサイクルを形成する)や,平均流および低次の乱流統計量を非常によく表す.この周期解の安定性を調べた結果,不安定多様体の次元は4次元ときわめて低次元であることが判明した.この周期解の安定化による乱流制御の可能性については,上記の定常解とも合わせて今後検討していきたい. 次に,乱流制御の初期段階の試みとして,多孔質壁面を用いた壁面乱流制御に関して数値的な研究を行った.その結果,壁面を多孔質にすることによって運動量輸送を促進できることがわかり,航空機における流れの剥離抑制などの工学的応用が期待できることが判明した.さらに,この運動量輸送促進のメカニズムを調べたところ,多孔質壁面上の流れでは乱流状態が不安定化して新たに大規模な渦構造が生成され,その渦構造の効果で運動量輸送が促進されることが明らかになった. また,後ろ向きステップ流に現れる3次元渦構造や乱流微細構造としてのらせん渦層など,乱流中の渦構造に関する研究も実施した.
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