研究概要 |
本研究の目的は、超高熱流束沸騰面近傍の気液微細構造を測定し、限界熱流束がサブクール度の増加とともに急増する原因を解明することである。この目的のために、本年度に行った研究実績の概要を以下に記す。 1.前年度に開発した静電容量法に加え,従来の触針法を大幅に改良した測定法を開発した。主な改良点は次の通りである。1)電界研磨法も用いて先端直径約5μmの触針を作成した。これによって空間分解能を向上させ表面張力の影響を低減させることで、精度が大幅に向上した。2)プローブ信号を時系列で取り込む測定系を加えた。これによって、プローブが蒸気と接している時間幅(以後、パルスと呼ぶ)の時系列分布やパルス幅スペクトルなどの測定が可能となった。 2.直径8mmの銅製水平上向き面を用いて、伝熱面上に単一の大きな合体泡が形成されるサブクール度0Kから40Kまでの限界熱流束近傍で気液微細構造を測定した。静電プローブを用いた測定より、伝熱面上には常に液体が残存していることが確認された。次に、触針プローブを用いた測定を行った結果、同一実験条件下では合体泡に対応するパルスは伝熱面上のほぼ同位置で消滅しすることが判明した。この位置が伝熱面上の液層厚さに対応すると考えられる。この液層厚さは、サブクール度の増加に伴って、飽和沸騰の予測値より顕著に厚くなることが明らかとなった。このことから、伝熱面上に大きな合体泡が形成される状況では、サブクール沸騰で限界熱流束が増加する原因は合体泡下の液層が飽和沸騰に比べて厚くなるためであることがほぼ確実になった。 3.金属箔や微小伝熱面など熱容量の小さな伝熱面のサブクール沸騰では、限界熱流束まで大きな合体泡は形成されないため、伝熱面上で発生する微細気泡の挙動が限界熱流束の発生と密接に関連する。しかし、これらの気泡は極めて短時間で消滅するため、従来は高精度な測定は困難であった。本研究では、静電容量法を用いることで微細気泡の発生・消滅過程を極めて高感度で捉えられることを明らかにした。サブクール度0K〜80kで測定を行い、気泡生成から消滅までの時間は、サブクール度10Kを越えるとサブクール度の増加とともに急激に短くなる結果を得た。このことから、熱容量の小さな伝熱面で限界熱流束が増加する要因は、サブクール度の増加とともに微小気泡の接合が抑制されるためであると考えられる。
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