本年度は基礎を確立する年として、基本的な計算系の構築と基礎的物理現象の工学的理解とに努力を傾注した。計算系として、(熱)エネルギーと運動量が同時に伝搬される状況を解析するため、2つの平行な固体壁間に液体が満たされている系を構築した。Harmonicポテンシャルによる分子層3層に一定温度の半無限固体を模擬するためのPhantom分子を組み合わせた固体壁を間隔2〜5nmで平行に配置し、その間に液体分子を配した。固体、液体分子の特性は任意に選択できるが、まず固体に白金(自由電子の寄与は考慮しない)、液体にアルゴンを用いた。この系は、 (1)固体壁間隔を大きくすれば中央部にバルク液体が、固体壁近傍には固体壁の影響を受けた固体的構造をもつ液体が、それぞれ発現する。固体壁間隔が小さいときには、固体的構造を形成した液体分子のみとなる。 (2)2つの固体壁に異なる温度を設定することにより、熱伝導(熱エネルギー伝搬)状態を模擬してその特性を調べることができる。 (3)固体壁を左右逆方向に一定速度で動かすことにより、液体にせん断を与えて運動量伝搬状態を模擬することができる。この場合はせん断のエネルギーが熱エネルギーに変化する(マクロ的には粘性加熱)ため、運動量、熱エネルギーの同時伝搬状態となる。 (4)固体摺動面の液体潤滑を模擬することができ、これを念頭に置いた来年度の応用的研究に直ちに発展できる。 などの特長をもっている。この系を用いた分子動力学数値解析により、液体の粘性が伝搬した運動量が熱エネルギーに変化する(粘性加熱)分子スケールの過程や、固液界面で発現する高非平衡状態の特性などを明らかにした。
|