流体がエネルギーや運動量を輸送(伝導)する特性を支配するミクロ(分子スケール)なメカニズムを明らかにすることを目的として、計算対象のミクロ流体として固体壁に挟まれた薄膜状の液体を選択し、分子動力学シミュレーションによる解析を進めた。この系は、固体壁が速度差をもつとき、クエット流類似の流れが形成される中で運動量の伝搬が発生し、同時に、流れのエネルギーが熱エネルギーに変換される(マクロには粘性加熱)ことにより液体の温度が上昇してエネルギーの伝搬(マクロには熱伝導)が生じることから、エネルギー・運動量の伝搬を解析しようとする本研究におけるミクロ流体モデルとして最適であるばかりではなく、液体潤滑(流体潤滑)として機械工学的に重要な応用につながる。液体として単純(単原子分子)液体を想定したシミュレーションにより、(1)固液界面におけるエネルギー・運動量伝搬特性の劣化による温度・速度ジャンプ、(2)固体壁近傍にあって固体分子のポテンシャルに捕捉されて固体類似の構造を形成した液体における伝搬特性、(3)固体壁極近傍の液体領域における著しい非平衡状態、などを明らかにした。特に(3)は、当該領域において熱的エネルギーが分子の運動自由度に等分配されていない状況を観察した最初の研究である。こうした非平衡状態の機序は回転自由度をもつ多原子分子の液体の場合にはさらに複雑となるため、これを解析する第一段階として直線分子を選択し、単原子分子の場合と同様の系についてシミュレーションを行って、その伝搬特性を解析した。
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