研究概要 |
本研究では,非定常燃料噴霧・噴流を着火させる筒内直接噴射式機関における着火制御を,燃料組成の最適設計によって実現することを目的とし,必要なデータベースの取得と着火モデルの立案を行う.本年度は,(1)現行燃料における着火律速成分の把握とその機構の理解,(2)純粋燃料と混合燃料との着火性の比較,および混合過程と燃料影響との関係の把握,の二項目を主たる目標とした. そのためにまず,現有の定容燃焼装置に,新たに電子制御蓄圧方式燃料噴射系を装備し,燃焼室内温度の初期設定の精度向上および温度不均一の解消などの改良を加えた.本装置を用いて,項目(1)については,実用燃料の代表としてJIS2号軽油を,また,項目(2)については,nヘプタン,iオクタンおよびこれらの混合燃料を用いて,雰囲気温度・圧力および噴射条件の広い範囲で着火遅れおよび熱発生率経過を計測し,高速度シャドウグラフによる混合気および火炎の可視化実験を実施した. その結果,800K以下の低い雰囲気温度においては,軽油とnヘプタンの見かけの活性化温度はほぼ一致し,雰囲気圧力が低下すると,900K付近において両者ともに負の温度勾配が観測された.すなわち,軽油の着火特性は,含有される高級アルカンの特性を強く反映しているといえる.また,nヘプタンのNTC温度領域における可視化および噴射条件変更試験の結果から,反応速度が低下した際には,噴霧中の混合気が希薄・均一化し,同じ燃料の均一混合気とほぼ同じ着火挙動を示すことが判明した.この現象には燃焼室壁面における混合が強く関与している.さらに,nヘプタンとiオクタンの混合燃料の着火特性については,反応速度の低いiオクタンが不活性物質として作用し,混合気中のnヘプタン濃度を低下させると考えれば説明が可能であることなどがわかった.
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