研究概要 |
細胞の凍結障害に及ぼす電解質溶液の濃縮の影響を明らかにするため溶液灌流顕微鏡を考案した.この装置では,灌流チャンバーに細胞を保持したまま濃度の変化する溶液を灌流し,細胞の挙動を観察することができる.送液は濃度の異なる溶液を充填した二台のシリンジポンプで行い,それぞれのシリンジからの流量比を時間とともに変化することにより灌流チャンバーの濃度を変化させた.チャンバーでの濃度変化の様子を光干渉法により測定するとともに,ヒト前立腺癌由来細胞株PC-3を試料として,浸透パラメータの測定および高張液による浸透圧変化を受けた細胞の生存率の測定を行った.得られた結果は以下のとおりである. 1.濃度をステップ的に変化させた場合に得られる最大変化速度を実験的に求めた.また,一定の速度で濃度変化を行う場合に,チャンバーでの濃度がほぼ設定通りに変化していることを確認した. 2.23℃における細胞膜の水に対する透過率は約8x10^<-14>m/Pa/s,浸透に不活性な体積は等張液中の細胞体積の約40%である. 3.高張液へ暴露した後,等張に戻した細胞の生存率は暴露前より低下する. 4.濃度の増減をステップ的に行った場合,生存率はわずかな暴露時間で急に低下し,暴露時間の増加とともに徐々に減少する.また,濃度が高いほど生存率の低下は大きい. 5.細胞の生存率は,濃度の増加速度がある程度小さければ急増した場合より高くなるが,濃度の減少速度には依存しない.したがって,細胞の損傷に重大な影響を及ぼす体積変化速度の限界が存在すると考えられる. 6.細胞は,体積変化に起因する細胞膜の機械的損傷と高濃度電解質による化学的損傷の両方を受け,その程度は濃度と濃度変化速度に依存する.
|