本年度の研究では、小型のツイストローラ摩擦駆動装置を組み込んだ位置決め機構を製作し、この位置決め機構を使って微少なテーブル移動範囲での位置決め挙動を調べた。位置決め機構を温度変化や外部振動を抑制した環境に設置し、ツイストローラ摩擦駆動装置の駆動軸を圧電素子と"てこ機構"を用いた微動装置によりわずかに回転させた。ツイストローラ摩擦駆動装置のリードは0.4mm程度であること、そして"てこ機構"を使ったことにより、圧電素子の変位は約1/1000に縮小されてテーブルを変位させることになる。圧電素子の変形範囲は10μm程度であるので、テーブルの位置決め範囲は10nm以下である。このテーブル位置を光ファイバ変位センサにより検出し、フィードバック制御システムにより圧電素子の変位を修正することでサブナノメータの位置決めをめざした。 位置決め範囲がきわめて狭いことより、ツイストローラ摩擦駆動装置およびテーブル案内装置などでの転がり接触状態はいわゆる非線形ばね特性を持つものと考えられ、このことをまず確かめた。その結果、テーブルの移動範囲がナノメータオーダである本研究の場合、転がり接触状態はきわめて再現性の高い"線形ばね"とほぼ見なせ、高精度の位置決め制御が可能であることが分かった。このことは、位置決め機構の位置決め方向に関する加振実験において、約180HzにおいてかなりQ値の高い共振が見られたことからも確認できる。 そこで、この位置決め機構の位置決め分解能の限界を探るために、フィードバック制御を行いながら、種々のステップ幅でステップ位置決めを行った。その結果、センサのノイズや環境からの外乱をローパスフィルタで除くことで、最小50pmのステップ幅での位置決めに成功した。したがって、微少領域での転がり接触における線形ばね特性によりこのような高い位置決め分解能が実現されたと考えられる。 来年度は本年度の成果を踏まえ、テーブルの移動範囲を広げて位置決め性能を評価することで、ピコメータレベルの「超精密位置決め技術」の確立を計り、電子情報、光学、物理学は始めとする多方面でのナノテクノロジ分野の研究・開発を推進する原動力の一つとする。
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