本研究では経路制御の本質について吟味し、1軸に関する制御とは異なった観点から、目標経路の予見情報を適切に用いた多軸経路制御システムの理論を構築し、これを実システムに適用して有効性を確認することを行ってきた。汎用的に多軸経路制御に有効な予見経路制御に対する理論を構築しようとする本研究は、制御工学の中でも従来の1軸サーボ系の枠組みとは異なった新しい分野に位置づけられると思われる。 具体的には、多軸システムに対して回転座標変換および伸縮座標変換を用いるベクトル分解経路制御と呼ぶ多軸経路制御手法を構築してきた。これにより、システムは時不変の線形システムとなり、ゲイン成分と位相成分相当に分離して扱うことができ、ゲイン成分のみにより経路誤差が表され、位相成分は経路上の移動のみを表すものとなる。 この軸伸縮変換の性質について検討し、この変換を行うことにより1型の制御系を構成すれば任意目標値に対して誤差が非常に小さくなり、通常のハイゲイン制御系とは性質が異なることをシミュレーションによって示した。また2軸に対しては、任意形状の経路目標値に対しては、それが円経路に近ければ円経路に、直線経路に近ければ直線経路に変換するのが望ましく、また基準点はある範囲であればどこでも経路誤差はほとんど変わらないことをシミュレーションおよび実験により示した。またこの手法を3次元の任意曲線経路の場合へも拡張して、理論的な検討を行っているがこれについてはまだ検討中である。 ついで実システムへの応用に関して、3軸の卓上型NCフライス盤を改造して、既存のNCコントローラとパソコンによるコントローラを切り替え可能な構成とし、ベクトル分解経路制御を用いた場合との制御性能の比較検討を行った。また二輪移動車両を試作し、これに対して任意経路を追従させる実験も行った。この結果、実システムに対してもベクトル分解経路制御の有効性が確認されている。
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