研究概要 |
真核生物の鞭毛や繊毛の内部には内側に2本,外側に9本の微小管が構成されており,外側の微小管にはダイニンと呼ばれるタンパク質が付いている。隣り合う2本の微小管に注目すると,ダイニンが滑り力を局所的に発生することにより,微小管同士の間に滑り運動が生じ,鞭毛や繊毛全体で屈曲運動が実現されている。本研究ではこの微小管の滑り規範とした屈曲機構を開発し,小型のマニピュレータや流体内推進機構など,工学分野に応用すること,また,鞭毛や繊毛の動きを再現し,それらの研究を支援する"鞭毛・繊毛運動シミュレータ"を開発することを目的とする。 はじめに微小管に相当する弾性梁を用意し,弾性梁上にダイニンに相当する電磁石を分布させた電磁アクチュエータによって屈曲する機構を開発,その水中内における推力を測定した。また,その水中内での推進特性に関する理論式を構築し,そのコンピュータシミュレーションを行い,測定結果と比較・検討を行った。 次にこの屈曲機構の軽量化を行うため,電磁アクチュエータ内の一部の電磁石の代わりにネオジウム磁石を用いることによって重量を約二分の一に低減させ,消費電力も低減することができた。また,電磁石のみの電磁アクチュエータによる屈曲機構よりも滑り量を増加させることができ,屈曲を大きくすることが可能となった。 さらに,より確実な滑り動作が再現できるように電磁石の配置を改善した。これより,従来よりも高い周波数における屈曲運動が実現でき,発生推進力も増加した。また,レイノルズ数が低い,高粘性液体中での屈曲運動を可能にするため,ダイニンの働きを,電磁石に代わる,ギヤユニット付ステッピングモータと歯付ベルトによって再現した屈曲機構を開発,その運動と流体内の推進力の特性について検討した。 研究最終年に,微小管の滑りについては規範していないが,繊毛の特徴的な動きである,「有効打」と「回復打」を再現する,可変剛性フィンと基部のモータによる推進機構を開発,基礎的な推進力特性の計測を行った。
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