研究概要 |
ヒトが接線方向に指を滑らせる動的触察によってμmオーダーの細かい凹凸面の質感を知覚する際には,錯覚による誤認知が知覚した質感に大きく影響していると考えられる.この影響を明らかにするためには,触覚受容器の応答特性を数値解析するとともに,様々な刺激に対するヒトの知覚特性を計測し,ヒトの誤認知メカニズムを明確化する必要がある.このため,本研究では,有限要素解析と心理物理実験をおこない,空間的に分布する接線方向振動刺激の振幅や周波数と粗さ感との関係についての基礎的な知見を得た.まず,ヒト指腹部断面と凹凸面の接触履歴を有限要素法により解析した.この結果,空間的に細かい凹凸面を対象とした場合には動的触察時にマイスナー小体へ加わる刺激が主に指腹部への接線方向刺激であることがわかった.また,指腹部の接線方向に任意振幅・任意波長・任意周波数の振動.刺激を呈示する装置を製作した.振動生成はボイスコイルモータによって行い,リンク機構により縮小した変位を振動刺激呈示部によりヒトの指腹部に呈示した.本装置を用いて複数の被験者に対する心理物理実験を行った結果,接線方向刺激の振幅が大きい場合や周波数が高い場合など,マイスナー小体が強く反応すると考えられる刺激に対して粗さ感が増すことがわかった.さらに,動的触察時に触覚・力覚・視覚がそれぞれ果たす役割についての研究を行った.すなわち,触察対象の粗さ面を実際とは異なるピッチに感じさせるために,皮膚と粗さ面の相対速度や視覚情報の内容を操作する実験装置を製作した.本装置によって感覚情報の内容を操作した水準を設けて一対比較試験を行った結果,ヒトは粗さ判別を行う際に,皮膚内部に生じる刺激の振幅と周波数,そして視覚情報の順に重要視していることを明らかにした.
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