研究概要 |
火力発電所やディゼールエンジンから排出される排ガスに含まれる窒素酸化物NOxなどの有害ガスの処理が重要な課題となっている。現在,大気圧非熱平衡プラズマによるガス状大気汚染物質の処理の有効性が確認され,エネルギー効率の高い反応器の開発を目指した研究が進められている。これまでの研究では市販のガスモニターを用いて反応器を出たガスを採取し,その検出濃度をもとに有害ガスの分解率を評価する手法が主としてとられている。この場合,反応器はブラックボックスであり,反応器の開発やモデリングに有効となる内部反応に関するデータは得られなかった。 本研究では,レーザー誘起蛍光法を用いてこれまでブラックボックスであった反応器内部での有害ガスの挙動を処理中でも直接観測できる手法を提案し,NO分子の反応器内での2次元濃度分布の観測に成功した。針対平板電極のような基礎電極および筆者らのグループにより開発されたコロナラディカルシャワー方式(添加ガスをノズル電極より直接プラズマ中へ注入する方式)により発生した大気圧ストリーマ放電中でのNO分子の様子を放電場だけでなく反応器全体にわたる広領域において観測した。その結果,処理ガスに含まれる初期濃度100〜200ppmのNO分子は放電プラズマにより酸化されてほとんどがNO_2となるが,この酸化反応は処理ガスの速度が遅い場合には放電部のみで起きるのではなくて,反応器のガス上流部から生じていることが明らかになった。その反応機構としては,放電により発生するイオン風の影響が大きく働き,酸化反応に有効なオゾンなどの長寿命の活性種が反応器内部に十分に輸送されるためであることがわかった。このようなNOx処理に関する知見は,これまで放電場だけを考慮していた反応のモデリングに対して,流れ場を含めた解析の必要性を示すものであり,さらに半経験的に進められてきた環境保全装置の設計に対しても新たな知見を与えるものである。
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