研究概要 |
低速陽電子ビームを用いてEu及びTbドープGaNの空孔型欠陥を評価した.希土類ドープGaN薄膜は,サファイヤ(Al_2O_3)(0001)面基板上にアンモニアを窒素源としたガスソースMBEにより製作した.原料は純度6Nの金属Gaと3NのEu,Tbを用い、通常のKセル(Knudsen effusion cell)より蒸発させた.RHHED測定より,EuとTbのドープ量は約2%であると決定した.また,X線回折の結果から,試料は単結晶であることを確認した.一方,(0002)に対応する回折線の反値幅はTbドープ試料よりEuドープ試料は広く,Euドープにより結晶品質が低下していることが明らかになった.PL測定により,両試料の発光特性を調べた結果,母体GaNに関係する発光は観測されず,Eu^<3+>イオンの内殻遷移による発光のみ観測された。Tbドープ試料についても同様に測定した結果,Euイオンによる発光は,Tbイオンによる発光に比べて2桁高いことがわかった. 単色陽電子を試料打ち込みエネルギーを変化させながら,陽電子・電子消滅γ線ドップラー拡がりを測定した.測定したドップラー拡がりはSパラメーターで評価した.Sとはドップラー拡がりスペクトルにおいて,狭い運動量分布を持つ電子と陽電子の消滅が起こる割合を評価するパラメーターで,欠陥種と空孔密度に依存する.測定結果から,TbドープGaN薄膜に対応するSの値は膜中で一定で,その値は,約0.465であった.一方,Euドープ試料のSの値は表面近傍で,0.490程度であり,GaN/サファイア界面では0.501程度まで上昇することがわかった.両試料とも陽電子の拡散距離は短く,陽電子はGaN薄膜中ではほとんど欠陥に捕獲されていることを示した.以上の結果から,Euドープ試料では,Tbドープ試料よりもよりサイズの大きな空孔型欠陥が導入されており,かつ,界面近傍ではそのサイズはさらに上昇すると結論できる.陽電子消滅で得られた結果より,空孔型欠陥がより多く導入されている試料では発光強度が高いことがわかり,希土類原子の発光メカニズムに空孔型欠陥が関与している可能性があることがわかった.
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