研究概要 |
本年度は,フォノン循環のミニバンド伝導に与える影響について検討した.これまで,半導体超格子における縦磁気フォノン共鳴に関して,横磁気フォノン共鳴の共鳴条件と同じ磁界で磁気抵抗が極大をとり,非常に大きな振動を示すという測定結果が報告されている.一方,バルク物質においても縦磁気フォノン共鳴が観測されているが,その位相は,一般的に横磁気フォノン共鳴とは異なっており,振動成分の振幅も弱いことが知られている.近年,イギリスのオックスフォード大学のグループにより,GaAs/AlAs半導体超格子の縦磁気配置では,通常の横磁気フォノン共鳴の共鳴条件では磁気抵抗に変化が見られず,電子がGaAsモードとAlAsモードの2種類の光学フォノンを吸収・放出しながら異なるミニバンド・ランダウ準位間を循環運動することによりはじめて磁気抵抗に変化が生じると報告された.以上のような状況をふまえ,今年度はフォノン循環がミニバンド伝導に与える影響について検討した. GaAs(19ML)/AlAs(7ML)超格子における光学フォノンモードを誘電性連続体モデルで記述し,縦磁気配置におけるミニバンド伝導をモンテカルロ・シミュレーションにより解析した.取り入れた散乱過程は,界面ラフネス散乱,光学フォノン散乱(誘電性連続体モデルによるフレーリッヒ結合),音響フォノン散乱(変形ポテンシャルおよびピエゾ結合)である.磁気フォノン共鳴の基本磁場(21T)のドリフト速度-電界特性は非共鳴状態(26T)の場合とほとんど異ならないことが確認された.すなわち,磁気フォノン共鳴状態では,光学フォノンの吸収・放出が組となって起るため,ネットなエネルギー緩和が起らないため,ドリフト速度が非共鳴の場合と変らない,ということが確認された.ただし,バルクモデル(単一のGaAs縦波光学フォノンのみを考慮するモデル)においても,磁気フォノン共鳴の基本磁場より若干高磁場側(低磁場側)でわずかなドリフト速度の増加(減少)が見られた.これは,磁気フォノン共鳴の基本磁場をはずれると,電子遷移が超格子の成長方向にも運動量変化を伴うようになることを考慮すると理解できる.誘電性連続体モデルでは,フォノン循環条件(25T)において非常に大きなドリフト速度の増加が見られた.さらに,GaAsモードとAlAsモードのフォノンによる循環条件以外にも,種々の界面モードによるフォノン循環によるドリフト速度の増加なども見られた.
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