研究概要 |
平成13年度は,おもに,フォノン循環のミニバンド伝導に与える影響について検討した.GaAs(19ML)/AlAs(7ML)超格子における光学フォノンモードを誘電性連続体モデルで記述し,縦磁気配置におけるミニバンド伝導をモンテカルロ・シミュレーションにより解析した.磁気フォノン共鳴の基本磁場(21T)のドリフト速度-電界特性は非共鳴状態(26T)の場合とほとんど異ならないことが確認された.すなわち,磁気フォノン共鳴状態では,光学フォノンの吸収・放出が組となって起るため,正味のエネルギー緩和が起らないため,ドリフト速度が非共鳴の場合と変らない,ということが確認された.ただし,バルクモデル(単一のGaAs縦波光学フォノンのみを考慮するモデル)においても,磁気フォノン共鳴の基本磁場より若干高磁場側(低磁場側)でわずかなドリフト速度の増加(減少)が見られた.これは,磁気フォノン共鳴の基本磁場をはずれると,電子遷移が超格子の成長方向にも運動量変化を伴うようになることを考慮すると理解できる.誘電性連続体モデルでは,フォノン循環条件(25T)において非常に大きなドリフト速度の増加が見られた.さらに,GaAsモードとAlAsモードのフォノンによる循環条件以外にも,種々の界面モードによるフォノン循環によるドリフト速度の増加なども見られた. 平成14年度は,おもに,非平衡グリーン関数法を用いて,電子フォノン相互作用が半導体超格子の電気伝導に与える影響について検討した.縦磁気配置では,印加電界を増加させるにしたがい,半導体超格子中の電子状態が,空間的に広がっているミニバンド状態から,空間的に局在したワニエシュタルク状態へと連続的に変化する.はじめに,非平衡グリーン関数法を用いて,ミニバンド状態からワニエシュタルク状態にわたる広い印加電界範囲における,磁場中の超格子の電気伝導を解析するプログラムを作成した.そして,そのプログラムを用いて低温における縦磁気配置におけるGaAs/AlAs超格子の電気伝導を計算した.これまで,サイクロトロン振動数とブロッホ振動数とが整合するとき,すなわち,シュタルク・サイクロトロン共鳴条件において電気伝導が増加するとされてきた.本研究では,シュタルク・サイクロトロン共鳴が直接は電気伝導の増加に結び付くことはなく,サイクロトロン振動数の整数倍と光学フォノンの振動数とが一致するという,いわゆる共鳴光学フォノン散乱の条件も必要であることを新たに見いだした.
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